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東京高等裁判所 昭和30年(ネ)1821号 判決 1956年2月28日

事実

控訴人(第一石産運輸株式会社)は、控訴人が訴外千登世木材株式会社の要請により同会社に宛て振出した本件好意手形を、千登世木材において代表取締役穂苅七五三治に裏書譲渡したことは、同会社取締役会の承認を経ていないから無効であり、またたとえ本件手形に昭和二十七年九月千登世木材株式会社取締役会の決議により爾今の取引に関して承認済なる旨の符箋が付せられていても、商法第二百六十条の取締役会の承認はある特定の取引を指示してなすことを要し、いまだ本件手形の存在しない以前においてなされた右承認は何らの効力を有し得ないから、穂苅七五三治からさらに裏書譲渡を受けた被控訴人も実質上手形権利者とはなり得ないと主張する。

これに対し被控訴人(株式会社横浜興信銀行)は、当時千登世木材と被控訴人との間には貸出取引がなく、たまたま同会社の代表取締役穂苅七五三治が個人名義で被控訴人と貸出取引をなしていたので、同人が自己の信用によつて千登世木材に金融の便宜を得させるため、隠れた保証の意味で本件手形を一且自己に裏書譲渡を受け、さらに自己名義で被控訴人に裏書譲渡したものであるし、商法第二百六十五条の規定は、会社の利益を保護する目的で設けられたもので、右保証により会社は利益こそ受けても何ら損失を被るものでないから、その意味においてなされた裏書譲渡は会社と取締役との取引には当らない。また控訴人の主張する本件手形に付せられた符箋についても、取締役会の承認は手形面上あるいは符箋の記載を要すべき事項ではないから、たといその内容が無効であつてもそのような符箋の添付があれば取締役会の承認が有効になされたものと信ずるのは通常であつて、日常多数にのぼる銀行の手形取引において、かかる過失は不可抗力にも近く、これをもつて被控訴人の重大なる過失ということはできないと述べた。

理由

千登世木材株式会社は事実上穂苅七五三治が主宰している株式会社であつて、同人はかねてから他の取締役から一切の経営を委せられていたのであるが、昭和二十八年控訴会社から融通手形として本件約束手形の振出を受け、被控訴銀行からこれが割引を受けようとしたが同会社は被控訴銀行とは手形取引がなく手形の割引を受けることができなかつたので、かねて被控訴銀行に対し全財産を提供して手形取引を行つている穂苅七五三治名義でこれが割引を受けるため、一且穂苅七五三治に裏書譲渡し、同人からさらに被控訴銀行に裏書譲渡してこれによる金融を得さしめた。穂苅は、千登世木材株式会社取締役会より、かねてから右同様の方法による手形取引をなすことの承認を得ていたが、さらに本件手形取引後においてもこれを同会社取締役会に報告し、その承認を受けたことが認められ、右認定を覆すにたりる証拠はないから本件控訴人の主張は理由がないとして棄却した。

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